投球障害肩

投球障害肩とは、投球で起こる肩の障害の総称です。繰り返す投球動作によって、関節内に存在する関節唇や靭帯が傷ついたり、上手く役割を果たせなくなった状態となることによって痛み出現することがあります。SLAP損傷や腱板疎部損傷によって起こるインターナルインピンジメントが原因となることもあり、我々は病態を詳細に捉えるために、関節内に造影剤を注入してMRI検査を行っています。運動療法で改善することが多いのですが、十分な運動療法を行っても症状が改善しない場合には手術療法が必要となることもあります。

五十肩(肩関節周囲炎)

40~60代に多く見られるため、「五十肩」あるいは「四十肩」と呼ばれ、肩関節に痛みや可動域の制限がある状態です。多くの場合、症状は左右のどちらかの肩にのみ現れます。

この状態は、肩関節の周囲(筋肉、関節包)に炎症が起こることにより、肩関節周囲炎とも呼ばれます。炎症によってこれらの組織が硬くなり、痛みや肩の動きの制限などの症状が現れます。また、夜間に痛みが強くなって眠れなくなることもあります。痛みは突然起き、ピークは数週間程度続くと言われており、長期間続く場合は1年程度続くこともあります。

自然に症状が改善することもありますが、痛みが強い場合には消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服や湿布が使用されます。それでも痛みが改善しない場合には、関節注射などの治療により痛みを軽減していきます。また、肩を安静したままにして動かさないと関節が癒着し、可動域が制限される可能性があるため、肩関節を動かすなどの適切なリハビリテーションも重要です。

肩腱板断裂

肩関節周囲の筋肉や腱の組織の一部が損傷し、肩腱板が断裂している(一部の場合も含む)と判定された状態が肩腱板断裂です。この肩腱板は、肩関節を安定させる働きがあるとされる筋肉や腱のことを指します。

肩腱板断裂の主な原因は加齢による腱板そのものの老化が多く、40代以上(特に男性)でよく見られ、発症率のピークは60代と言われています。その他にも、スポーツ(野球など)による過度な使用や交通事故など外傷が原因となることもあります。

一般的な症状としては、肩の運動が制限されたり、運動時や睡眠時に痛みを感じることが挙げられます。痛みが強い場合は、眠りを妨げることもあります。また、肩を上げる際に力が入らず、ゴリゴリといった軋轢音が聞こえることもあります。

治療内容は症状の程度に応じて異なります。部分的な断裂の場合は保存療法が選択されます。痛みを軽減するためには、消炎鎮痛薬(NSAIDsなど)や局所注射を行います。同時に、リハビリテーションも重要で、肩周囲の筋肉トレーニングなどを行い、肩関節の動きを改善します。

石灰沈着性腱板炎

肩関節にある腱板にリン酸カルシウム結晶(石灰)が沈着し、それによって肩に炎症が生じ、痛みやその他の症状が現れる状態を石灰沈着性腱板炎と呼びます。現時点において、石灰が沈着する原因は明らかにされていません。

この疾患は、主に40~50代の女性に見られます。一般的な症状としては、突然肩に強い痛みが現れることが挙げられます。この痛みは非常に激しく、眠れなくなることもあるほか、肩の可動域が制限されることもあります。

治療に関しては、痛みを和らげるために局所麻酔薬の注射療法や消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服などが行われます。また、肩の動きを改善するために、運動療法などの運動器リハビリテーションも行われます。

これらの治療法が効果を示さず、痛みや関節可動域の制限が改善しない場合は、手術療法が検討されることもあります。

変形性肩関節症

加齢やスポーツなどによる酷使、脱臼や骨折などのケガをきっかけに、肩関節の軟骨のすり減りや骨の変形などが起きる状態を変形性肩関節症と呼びます。主な症状として、発症初期には肩関節にこわばりや痛みが現れ、可動域が制限されることがあります。さらに進行すると、関節内に液が溜まったり、夜間に痛みが強くなることもあります。なお、すり減った軟骨や変形した骨を元の状態に戻すことはできません。

変形性肩関節症の発症初期であると診断された場合、保存療法が主体となります。痛みを和らげるためには、消炎鎮痛薬(NSAIDsなど)や関節内注射が用いられます。関節可動域訓練や筋力強化訓練などの運動療法および温熱療法、電気療法などの物理療法といった運動器リハビリテーションも併用されます。

これらの保存療法では痛みの緩和や可動域の改善に不十分であり、日常生活に支障をきたす場合には、手術療法(外科的治療)が検討されることもあります。

肩関節脱臼

骨同士がつながる部分である関節が何らかの原因でずれる状態を脱臼と呼びます。この状態は、転倒やスポーツ中の激しいボディコンタクトなどによって、肩関節に強い外力が加わることが一般的な原因です。ただし、病気によっても引き起こされることもあります。

一般的な症状には、肩を動かす際の痛みや、自ら肩を動かすことの難しさが挙げられます。また、肩関節が2回以上脱臼すると、再発しやすくなる傾向があります。この状態では、軽度な外力でも肩が外れることがあります。これが反復性肩関節脱臼です。

治療において、初めての脱臼の場合は、まず肩をしっかり整復し、2~3週間程度肩関節を装具によって固定します。その後、肩関節可動域訓練や筋力強化訓練などの運動療法を通じて、再発を予防していきます。

上腕二頭筋長頭腱炎

上腕二頭筋長頭は、力コブができる部分にある筋肉で、この筋肉の腱に炎症が起こる状態が上腕二頭筋長頭腱炎です。主な発症要因としては、野球の投球動作やテニスのサーブ、水泳のクロールやバタフライなどのスポーツによる酷使や、重労働が挙げられます。また五十肩の原因となる加齢によって、この状態が引き起こされることもあります。

主な症状としては、肩前面の運動時の痛み、運動制限などが挙げられます。また、夜間に肩の痛みが強くなることもあります。この状態を放置すると、可動域の狭窄や、肩の痛みが慢性化する可能性があるため、注意が必要です。

治療においては、スポーツによる酷使が原因であれば、そのスポーツを控えるようにします。痛みが強い場合は、痛み止めの薬、注射、湿布などが使用されます。また、運動器リハビリテーションとして、温熱療法、電気療法などの物理療法や運動療法も行います。

五十肩によって引き起こされる場合も、痛みが強い時期は安静にします。痛みを緩和させたい場合は、同様に痛み止めの内服薬などを使用します。さらに、運動療法も欠かせません。痛みや拘縮を軽減するためには、多少の痛みがあっても、肩を動かすことが重要となります。

肩・肘画像

上腕骨内側上顆炎

ゴルフ肘としても知られるこの症状は、野球のピッチャーやゴルフプレイヤーのように手首を使った投球やスイングを頻繁に行うスポーツ選手によく見られますが、日常生活でも肘の酷使で発症することがあります。主に肘の内側側面に症状が現れ、物を持った状態で肘を曲げる際や手首を手のひらの方向に曲げるときに痛みが生じます。

治療には、症状の原因となる動作を減らすことが重要です。痛みを軽減するためには、ステロイド注射などの方法で炎症を抑えることがあります。また、原因となる動作を減らすのが難しい場合は、手首や関節のストレッチを定期的に行って症状の発生を防ぐことも必要です。このほか、スポーツに起因する場合は、フォームやスイングの見直しを行い、再発を予防する取り組みも重要です。

上腕骨外側上顆炎

肘の外側側面に痛みや炎症が見られ、肘の過度な使用が原因とされる状態を指します。特に中年以降にテニスを始めた人々に多く見られるため、一般的にはテニス肘と呼ばれます。この場合、バックハンドストロークの過剰な練習が主な引き金となりますが、手首を多用する他の仕事や家事でも発症することがあります。

主な症状は、物を持ち上げたり雑巾を絞る際に肘の外側から前腕にかけて痛みが生じることです。痛みは安静時には感じません。

治療では、まず原因とされる動作を控えます。痛みの緩和には湿布や外用薬が使われます。さらに、手首を様々な方向に動かすストレッチは筋肉を柔軟にし、痛みを軽減するのに役立ちますので、重要です。痛みが強い場合は、局所麻酔薬とステロイドを含む注射を肘の外側に行います。

保存療法だけでは改善しない場合は、医師が手術療法(外科的治療)を検討することになります。

肘内障

小児(主に幼児)に見られ、子どもが痛がり、腕を上げることができなくなる状態を肘内障と呼びます。発症のメカニズムは、手を引っ張るなどの行為が原因となり、肘の輪状靱帯から橈骨頭がわずかにずれることで起こるとされています。もし手を引っ張った心当たりがあり、その後子どもが肘を曲げたまま腕を下げて動かさないのであれば、肘内障の可能性が高いです。

治療は徒手整復が行われます。整復中に痛みが一瞬感じられることもありますが、その後は痛みが出にくくなり、安静の必要ないとされます。肘の曲げ伸ばしも自由に行えるようになりますが、6歳くらいまで再発しやすいとされます。7歳を過ぎると、輪状靱帯が発達し、肘内障が起こりにくくなります。

変形性肘関節症

肘関節の軟骨や骨が変形し、それによって肘を曲げたり伸ばしたりする際に痛みや可動域の制限が生じる状態が変形性肘関節症と診断されます。変形の原因としては、スポーツや仕事での肘関節の過度な使用、脱臼や骨折などの外傷、加齢による軟骨の摩耗などが挙げられます。

治療に関しては、日常生活に大きな支障がなければ保存療法が行われます。具体的には、装具療法による肘の固定をはじめ、痛みの緩和には消炎鎮痛薬(NSAIDs)などが使用されます。また、可動域を改善するために動器リハビリテーションも行われます。これには、関節可動域訓練、筋力増強訓練、ストレッチングなどの運動療法や、温熱療法などの物理療法による理学療法が含まれます。

日常生活に支障がある場合には手術療法が選択されます。患者様の状態に応じて、関節内で遊離した骨や軟骨を取り除く関節遊離体摘出術や、肘関節形成術、人工肘関節置換術などが検討されます。

上腕骨離断性骨軟骨炎

思春期の男性に発症しやすい、軟骨の内側近くにある骨が剥がれてしまうようになる状態が離断性骨軟骨炎です。特に肘や膝で起こりやすく、肘での発症を上腕骨離断性骨軟骨炎と呼びます。この症状は、野球など投球動作のスポーツをする少年選手に多く見られます。

初期の症状は軽度の痛みですが、時間とともに痛みが増すことがあります。ただし、安静にすれば自然治癒することもあります。ただし、中学生くらいになると自然治癒が難しくなります。

剥がれた骨はすぐに取れることはなく、病状が進行してから離れるようになります。この軟骨片や骨片が遊離して、コロコロと関節内で動くことで、関節ネズミと呼ばれる状態が生じます。

治療については、自然治癒が難しい場合には手術療法が必要となります。

肘部管症候群

肘の内側後方を通っている尺骨神経が何らかの原因によって圧迫されるなどの原因により、主に手のひら側の小指と薬指の半分(小指寄り)にしびれが生じる状態を肘部管症候群と呼びます。この症状が進行すると、かぎ爪指変形や手の筋肉の萎縮などが現れます。

肘部管症候群の原因には、腫瘍(ガングリオンなど)による圧迫、加齢や肘の骨折などの外傷による変形、スポーツや仕事での肘の過度な使用などがあります。

治療は症状の重症度に応じて異なります。軽度の場合は、まず肘を安静にすることがあります。必要に応じて、消炎鎮痛薬(NSAIDs)や、神経修復を促進する機能があるとされるビタミンB12を服用する薬物療法が行われます。

しかし、これらの治療だけでは症状が改善しない場合や病態が進行している場合には、尺骨神経を圧迫しているとされる靭帯の切除や腫瘍(ガングリオンなど)の摘出などの手術療法が選択されることもあります。

肘内側側副靱帯損傷

肘内側靭帯損傷は肘関節脱臼に伴う外傷性のものと、繰り返す投球動作により微細な損傷や変性で起こる障害によるものがあります。外傷性のものは不安定性がある場合には、手術療法が選択されることがあります。投球障害による内側側副靱帯損傷は理学所見とMRIなどの画像検査を総合的に判断して診断します。投球時の前腕回内外運動や肩甲胸郭運動を意識させる投球指導、ボールの握り方などのチェックを行い、肘への負担が軽減し競技復帰が可能となります。ただ、十分な運動療法を行っても靭帯の変性や劣化により、投球時の痛みが改善しない場合には、靭帯再建術、いわゆるTommy John手術を行うことがあります。

肘頭疲労骨折

投球により肘の後ろが痛くなるのが主な症状です。徐々に漠然として痛みが増強してくることが特徴です。フォロースルー期に痛みを訴えることが多く、痛みを我慢して投球し続けることによって悪化していきます。レントゲンだけでは診断することが難しいことがあります。運動療法が治療の基本となります。十分な運動療法を行っても改善しない場合には手術療法によって治療することがあります。